地元の農家さんの野菜などを販売されているファーマーズマーケット 夢らいふ さんの一角で、上品な雰囲気を漂わせるカフェ、エジソン休憩所 。自動販売機とパイプ椅子しかなかった休憩所を素敵な空間に変身させた、店主 日向野雄一郎さんにお話を伺いました。
野菜を買いに来てくださったお客様が立ち寄る、より、店にいらっしゃったお客様が野菜も買って帰ってくださることが多いです
── お店を開こうと思われた経緯は何ですか?
昔から自分の店をやりたいという気持ちはありました。コーヒー豆の製造、卸などをやっている会社に6年間勤めていて、自分はその中でも喫茶・カフェの仕事をしてコーヒー豆の販売もしていました。
コーヒー豆の焙煎もその会社でやりたいとは思っていたんですが、それはできず退職しました。その後も飲食関係の仕事はしていたんですが、やっぱりコーヒーの仕事がしたいと思っていて、以前勤めていたコーヒーの会社の上司が独立してお店を始めたので、そこで1年、コーヒー豆の焙煎をさせてもらいました。
それがエジソン休憩所を始める1年前です。
自分の店をやりたかったんですが店舗を借りるようなお金はなくて、この夢らいふで店を出せるということになったので、妻の実家がある三重県に引っ越してきました。
── もともと三重県にいらした訳ではなかったんですね。
そうですね、いちばん長く住んだのは東京なんです。夢らいふは妻のお父さんとここの社長が一緒に事業をされてるという繋がりがあったので。この場所も、キッチンはもともとあったんですが、パイプ椅子と長テーブル、自動販売機だけの休憩所だったんですけど、ここならできるかなって。
── 変わった立地なので、どういった経緯でここにされたのかなと思っていました。
この場所は、狙ったわけじゃないんですよね、ここでしかできなかったんです。
── 若いお客様が多いですね。おそらく、野菜を買いにこられた方っていうより、エジソン休憩所さん目的で来られる方ですよね。
最初の想定と違ったんですよ。夢らいふにいらっしゃるお客さんが寄ってくださると思ってたんですけど、今それはほぼ無いです。ほとんどInstagramとかFacebookを見て店に来てくださって、帰りに野菜も買ってくださるっていう。
── 相乗効果が生まれてますね。
そうそう、僕がお世話になる方だと思ってたんですけど。少しは役に立ってるかなと思っています。
こだわりは「美味しい」ということ
── お店のコンセプトを教えてください。
コンセプトは、僕が行きたいお店を作りたかったっていうのはあります。東京でも散々カフェや飲食店巡りをしたんですけど、いいお店って少なくて。じゃあ、いいお店って何かって考えて、ちゃんと美味しい、ある程度以上美味しいものが出てきて、いつ行ってもオープンしてて、落ち着けて、日常的なカフェ、と思ったんです。
── 特別感というより、自分がいて、落ち着けるっていう空間ですかね。
そうですね、でも味はちゃんと美味しくないとだめで。コーヒーがまずかったらそれで終わりだし、コーヒー以外も頼んでみたら美味しくなかったっていうのもだめだし。やっぱり、何を頼んでも美味しいっていうのは、安心感に繋がると思うんですよね。そういうお店がやりたい、コンセプトはそういうところですね。
美味しくないもの食べた時って腹たちませんか?
── もう来ないってなりますね(笑)
もう来ない、ならいいんだけど、その瞬間に葛藤が生まれてしまうんですよね(笑)同業者として、いや、ちゃんと美味しいもの出そうよって。
── 店舗さんにはおすすめの商品を伺ってるんですが、全部美味しいんですもんね。
おすすめメニューっていうのは選べないですね。これがおすすめっていうのがないのがコンセプトなので。ここに来たらこれを食べようってことじゃないんですよね。プリンはすごく人気あるんですけど、「プリンのお店」になるのは嫌だし(笑)もちろん美味しいプリンなんですけどね。ランチのこれが目玉です、とか、並んででも買うとか、それってすごく危ういものだと思うんです。それでやっていけてる方もいるんで、すごいなとは思うんですけど、僕はあまり好きじゃないんですよね。
自分で選んで食べていただきたいし、そのためには、どれも美味しいから安心して選んでいただける、っていうことを努力してます。
── コーヒーのお仕事されてたということですが、コーヒーのこだわりはありますか?
例えば、アイスコーヒーは「すっきり」と「濃厚」の2種類ご用意してます。だいたい1種類ですよね。「すっきり」は薄いわけじゃなくて、氷でぎゅっと急冷するのでさっぱりはするけど、味があって後味がすっきりしています。「濃厚」はネルドリップって言うんですけど、布で抽出してます。「すっきり」はペーパーで。コーヒーって脂分をいっぱい持ってるんですけど、紙だと脂も吸収するのですっきりして、ネルだとちょっと脂も出るので、まったりというか、濃厚な感じが出るんです。カフェオレもネルドリップで入れたもので作りますね。牛乳の脂と合わせたいので。
── 紙と布で、そんな違いがあるんですね!
そうですね、そこがこだわりですね。
── みかんジュースっていうのもありますね。これもこだわりが?
いや、みかんジュースは、特にこだわりとかはなく、ポンジュースです(笑)
でも、ポンジュースって絶対美味しいですよね。これを美味しくないっていう人はいないと思うんですよ。だから、使ってます。
ただただ「自家製」とか「◯◯さんの畑の有機みかんを絞りました」とか、そういうことに騙されたくないなと思っちゃうんですよね。みかんを絞っただけのジュースって薄くないですか?優しくて、薄くて、ああみかん絞ったんだなって(笑)
── 何でもそういう代名詞つければいいっていうもんじゃないってことですね(笑)
そう、それって本当に美味しいですか?って思うんですよ。アレルギーはまた別ですけどね。例えば、砂糖・卵不使用っていうのは、アレルギーのことを考えてされてる方が多いと思うんですけど、そういう理由がなくてしているのはあまり好きじゃないんです。お菓子は適正な甘さがあるほうが美味しいですし。みかんジュース、意外とこだわりありましたね。あえてのポンジュースです。
── パンもここで焼かれてるんですか?
ここで焼いてます。これも、買いに行く場所がなかったから作るしかなかったっていうだけなんですけどね。
── はちみつトーストのはちみつは沖縄のはちみつなんですね。
以前働いていたコーヒー屋さんでずっと使ってたんです。花臭くないんですよ。百花はちみつなんですけど、くどくなくて。沖縄ってたぶん気温が安定しているからか、初めて食べたときから味がずっと変わらないんですよね。ブレが無くてずっと同じなんですよ。安定して美味しいので使っています。
── スイーツなどもご自身で作られてますが、以前のお仕事で料理もされてたんですか?
いえ、ケーキ作りは全くやったことなかったんですよね、仕事でも、プライベートでも。
── ではお店を始めてからですか?
そうですね、お店を始めるって決めてオープンの数ヶ月ぐらい前から、本気でやらないとだめだと思って本を読んだりしました。チーズケーキは、以前住んでいたところに好きなカフェがあって、そこのチーズケーキがすごく美味しかったのでオーナーに頼んでレシピを教えてもらいました。レシピそのままです。
── すごく器用ですよね、スイーツ作りって、やろうと思ってすぐできることじゃないと思うんですが。
器用は器用なんですけど。これまで、色々食べたんですよ、お菓子もそうだし。とにかく味を追求して、美味しいものを食べるのが好きなんです。僕が最初に入った会社の社長がそういう方で、社員もみんなそういう感覚を持っている方たちでした。
だからお菓子やケーキも、食べる時は必ず、美味しいのか、美味しくないのか、美味しくないのは何で美味しくないのかをいちいち考えながら食べるんです。口には出さずに考えながら食べて、自分の中に物差しというか、基準を作っていったんですよね。もちろんコーヒーもそうです。
── 「美味しい」の基準があるからこそ、美味しいものが作れるっていうことですね。
そう、僕自身びっくりしてるんですよね。こんなにお菓子が作れると思っていなかったし、しかもお客様が美味しいって言ってくださるんで。不思議だなと思ってたんですけど、よく考えたらそういう蓄積があったからなのかなと思います。
自分が食べたことある以上に美味しいものって間違いなく作れないですもんね。これはあと砂糖何グラム減らそう、とかそういう微調整ができるようになっていました。
好きで集めていた古道具をずっと温めていました
── 空間作りのこだわりはありますか?
ちょっと難しいんですけど、まずお金がなかったんです。お金はないけど、それなりにやったっていうだけなんですけど。なのでコンセプトは正直あまりなくて、ソファも内装作っている途中でいただいたものだし。カウンターにりんご箱の破片を貼り付けたのも思いつきだし。
この合板の壁はもともとあったんですけど、この壁の感じが好きで。合板ですけどちょっと時間が経って味が出てますよね。この壁はいけると思って、写真を撮って東京にいるときから見て考えてたんですけどイメージがわかなくて、実際こっちにきてから1ヶ月半ぐらい毎日ここでぼーっとしながら、どうしようかなって思って、悩みながら作ったんですよね。
ただ、好きな感じの建築はあるんです。建物なども好きなので。そういう「好き」が自分の中にはたぶんあったんでしょうね。昔から雑誌とか切り抜いていました。
近年の日本の住宅、モダン建築とか、そういう時代のものが好きです。あとは北欧のものですね。直近で働いていたところの先輩が北欧マニアで、店内もすごく北欧の感じでした。その北欧デザインとか近代建築って、こういう合板をよく使うんですよね。扉を一枚合板で作ったり、それが逆によく見えるんです。
ここも、まずここの壁があって、この壁に合わせたっていえば合わせました。あとはたまたま手に入ったりんご箱と。
── 色んなところにりんご箱が使われてますよね。
夢らいふの社長が市場で仕入れてきて、山積みになっていたので、中でもきれいなやつをタダでもらってきました。
── ところどころ、ミニチュアの小物置かれてますね、お好きなんですか?
最初は友達から開店祝いにいただいたこのコーヒーカップとポットを飾っていただけなんですけど、お客様にとても人気だったので。オープンして1年経ったので少し増やしましたが、お店の全体のイメージとしてはちょっと外れてますね。
── 遊び心ですね。
やりすぎないように意識はしてるんですけどね。すごく気の合うおじさんがいて、建物の話とかをするんですけど。その方が「あざといものが嫌い」ってよくおっしゃるんですよ。僕もそれを聞いてから、「あざとい」っていうことが気になりだしました。
── 狙ってる、みたいな感じですね。
そうそう、狙ったものってすごい嫌じゃないですか。その線引ってすごく難しいんですけど。あざといのか、あざとくないのかっていう。自分の中でそこも気をつけてます、ギリギリのラインです。
── これは椅子ですか?
椅子です。東京にロバロバカフェっていうのがあって、有名なカフェだったんですけど閉店してしまったんですよね。この椅子はそのお店の物で、閉店するときに安く譲っていただきました。
── 店内の小物などはどういうところで見つけてこられるんですか?
お店を始めるからって買った小物は1つもないんです。レジも8年ぐらい前に古道具屋で買いました。 古道具も好きで、古道具屋さんになりたいと思っているときもありました。なので昔から、好きで集めてたものがほとんどですね。
このカウンターの板も、最後に店長をやっていたお店が、都合で閉店することになったので解体するときにもらってきたんですよね。7年前から家で温めていました。
── これがずっと家にあったんですね(笑)そういう長年家で温めてたものが、一斉にここに集まったんですね。
そう、使えたので良かったし、温めてたものの方向性とか色とか、意外と昔から、ずれていなかったですね。
喫茶の質を上げるということ
── これからチャレンジされたいことはありますか?
これまではずっと、コーヒー豆の焙煎がやりたかったんですよ。こうやってケーキとかを作っているうちに、最終的にコーヒー豆も自分が納得した、責任を持ったものを出したいと思って。今年中ぐらいには焙煎機を買って、焙煎をやりたいと思っていました。
でもつい最近、考えが変わりまして、もうちょっと喫茶の質を上げることをやってもいいかなと思い始めました。
── 喫茶の質を上げる、とは、例えばどういうことですか?
今は自分1人で店をやっているので、日々を回していくのにいっぱいいっぱいになってしまってるんですよね。なので、人を1人増やして、新しいケーキを作ったり、ケーキのブラッシュアップができる時間をしっかり作るとか、規模を広げて席数を増やしたりとか。1人だとお客様をお待たせしてしまうこともよくあるので、待ち時間を縮めるっていうことも喫茶の質を上げるっていうことですよね。
内装もそうですし、このIKEAで300いくらで買った照明を変えたいなとか(笑)
そういうところですね、焙煎機を買うよりも、そういうことにお金を使っていきたいと思っています。焙煎は、焦る必要ないかなと、人生長いし。まだ1年目ですしね。
── 楽しいお話をたくさんありがとうございました!